近年,しばしば悲惨な交通事故があり,多く報道され,社会的議題になってきたこともあり,交通事故関連の刑罰法規が頻繁に改正され,厳罰化が進んでいます。
交通事故を起こしてしまった場合,民事の損害賠償と免許取消しなどの行政処分がある他,刑事責任の問題があります。人身事故(傷害が生じた事故や死亡事故)を起こした場合には,刑法所定の犯罪に該当することとなり,典型的には下記の刑事責任が生じ得ます。
また,物損事故の場合,事故相手の車や物を壊すことについて器物損壊罪が問題となりますが,器物損壊罪は故意犯(要するにわざとやった場合に成立する罪)で過失は罪とはならないため,交通事故をわざと起こすといった例外的な場合でなければ問題となりません。ただし,物損事故の際に道路交通法違反を伴っていた場合は道路交通法違反として問題が生じる場合があります。
自動車の運転で,過失により,人を死傷させた場合に適用されます。
従前は業務上過失致死傷罪(刑法第211条。5年以下の懲役禁錮100万以下罰金)が適用でしたが,自動車の運転が人の死傷を招きやすい行為であることから特別に罪が重く規定され,7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科されます。
無免許運転の場合,更に刑の加重があり,10年以下の懲役となります。
危険な状態で運転し,人を死傷させた場合に科せられます。
危険運転の場合,人を負傷された場合には,15年以下の懲役,致死の場合には1年以上の有期懲役となり(自動車運転処罰法2条),他の類型と比べて長い法定刑が定められており,重い刑罰です。
具体的に危険な運転とは以下の通りです。
アルコールで正常な運転が困難な状況とは,どういった状況なのか?ということが問題です。
危険運転致死傷罪とは異なりますが,道路交通法違反となるケースとして,酒気帯び運転と酒酔い運転があります。酒気帯び運転(飲酒運転)の基準は,呼気中アルコール濃度が0.15mg以上となった場合です。体重が70kgの人であれば,350mlの缶ビール1本で基準に達すると言われることもあります。
酒酔い運転はアルコール濃度の数値に関係なく,酒に酔った状態のため正常な運転ができない恐れがある状態です。酒酔い運転は酒気帯び運転とは異なり,客観的な基準はないため,人によってはアルコールに弱い体質の方であれば,少量の飲酒でも該当する可能性があります。その逆として,酒気帯び運転に該当する場合でも,酒酔い運転には該当しない場合もあります。
これに対し,危険運転致死傷罪が成立する「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは、道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態にあることをいうと考えられています。道路交通法の基準とは異なり、運転者が、自身が道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態にあることを認識している必要があります。
「進行を制御することが困難な高速度」とは,速度が速すぎるため自動車を道路の状況に応じて進路状況等に基づき,当該速度で運転を続ければ,道路や路面の形状や状況,車両の構造・性能等の客観的事実に照らし,あるいは,ハンドルやブレーキ等の操作のわずかなミスやカーブの発見のわずかな遅れ等により自動車を制御不能とさせ,道路から逸脱させるなどして,事故を発生させることになると認められるような速度をいうと考えられています。
注意点は,法定速度より何キロオーバーという設定がなされていないことです。高速度運転にあたるのかの評価については,自車の構造・性能や進路状況によって変わってきます。
運転者個人が「進行を制御する技能を有しない」で自動車を走行させた場合,危険運転致死傷罪が適用されます。
「進行を制御する技能を有しない」とは,無免許や運転の資格が無いという意味ではなく,運転操作の初歩的な技能すら有しない未熟な技能しか持っていないということを意味すると考えられています。
いわゆる「あおり運転」などの妨害運転が厳格な取り締まりの対象になりました。
高速自動車道路や自動車専用道路において,自動車の通行を妨害する目的で走行車両の前方で停止し,著しく接近するように運転することにより,走行車両が停止又は徐行(車両等が直ちに停止することができるような速度で進行することと道路交通法で定められています)をさせた場合です。
重大な交通の危険を生じる速度で運転し通行禁止規制がかかった道路を走行したり,道路を逆走して交通事故を起こした場合です。
通行禁止道路には,車両通行止め道路,自転車及び歩行者専用道路,高速道路の中央から右側部分,歩行者専用道路,一方通行道路(逆走の場合),安全地帯等があります。
アルコールや薬物または政令で定める病気の影響により,その走行中に正常な運転に生じるおそれがある状態で,自動車を運転し,よって,それらの影響により正常な運転が困難な状態に陥り,人を死傷させた場合に適用されます(自動車運転処罰法3条)。
病気については,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行令(=自動車運転処罰法律施行令第3条)にて定められています。具体的な病気としては,統合失調症・低血糖症・躁うつ病・てんかん・再発性の失神・睡眠障害です。
こちらは故意犯でより重い刑罰があります。しかし,交通事故は通常はわざとではなく過失によるものですから,成立しないのが通常です。
よほど特殊な死亡事故では死刑まである殺人罪を適用すべきではないかとマスコミ報道などで意見が出ることがあります。確かに,客観的にも故意が認定できるようなケースでは法律論的にあり得ることですが,刑法の適用は厳格な事実認定を前提とし,わざとではないと被告人が主張した場合にそれを否定する証拠が必要となりますから,交通事故で故意犯が問題となるのは「殺すつもりで轢いた」等,余程特殊な場合に限られるでしょう。
この他,交通事故が生じた場合に限った話ではありませんが,飲酒運転,無免許運転,自賠責保険の未加入,車検違反,事故後の救護義務違反などについて道路交通法で刑罰が定められています。
弁護士の仕事のひとつに刑事弁護があります。
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